「介護離職」をする前に在職中に考えておくべきこと

わたしは、介護離職を経験しています。厳密に言うと本当の意味での介護は「終末ケア」の10日間で、それ以外は自宅や病院での看護などがメインでした。

介護離職の問題は他人事ではない

順当にいけば、親はあなたより先に人生を全うすることになります。突然死をする人もいれば、老衰で体がほぼ動かなくなったり、癌やその他の病である程度の余命を告げられて死を迎えることもあるでしょう。

いずれあなたも、親の介護という、人生の大きな節目に立ち合う可能性があります。その時に、就労しているあなたがどのような選択をするのか?

介護離職は就労者にとって、今後も大きな問題となっていくことは確実です。そのために、わたしの経験が役立てば幸いです。




わたしが介護離職を選んだ理由

母の病気が末期癌とわかってから、約4ヶ月ほどは通常勤務を実施していました。休職という方法もあったかもしれませんが、以下のような理由もあって、わたしは「介護離職」を選択しました。

  • 残された時間を少しでも一緒に過ごしたかった
  • 職場と実家の距離が1,000km以上離れていた
  • 母の余命も明確にはわからず休職は選べなかった
  • 休職状態では新しい人員の補充が無いと考えた
  • 土日の緊急対応業務もあるため遠く離れた実家に帰りづらかった
  • 遠く離れた母の状況を考えると仕事に集中できなかった
  • 実家で同居している兄への負担がその時点でかなり大きかった

わたしは「介護離職」を選んだことに後悔はありません。「介護休職」では人に迷惑を掛けるという気持ちがありましたし、親に対して中途半端な接し方になると思ったからです。

厚生労働省も「介護離職ゼロ」を掲げている

介護離職をすることには当然ですがいくつかのリスクが伴います。

  • 最悪収入もなくなり経済的な負担が増す
  • 年齢的に再就職のハードルが上がる
  • 介護によるストレスで自分も余裕がなくなる
  • 肉体的にも辛くなる

介護休職制度を把握しておく

「介護離職」に該当する確率が高い世代が、働き盛りである場合も多く、介護離職による企業への影響を懸念しています。そのため、厚生労働省も介護離職ゼロをスローガンとして掲げています。

離職という事態を防ぐために「介護休職」の制度もあります。


ただ、前述のように「具体的な介護期間が分からない」ことも多く、容易には取得しにくい現状もあると考えられます。

介護離職者は統計データ上で増加しているか?

介護離職者数の現状については、厚生労働省で定期的にデータが開示されています。平成19,24,29年の統計データは以下のようになっています。


該当した年次の1年間の統計データですが、平成29年は総離職者数の1.8%である9.9万人であり、平成24年と比べてほぼ横ばいです。今後、高齢者がさらに増えていく中で、介護離職者数は増加していく可能性もあります。

介護休業・介護休暇を取得できる条件

介護休業の受給条件や受給額についてはハローワークのHPが参考になります。

家族を介護するための休業をした被保険者(※)で、介護休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上ある完全月(過去に基本手当の受給資格の決定を受けたことがある方については、基本手当の受給資格や高年齢受給資格の決定を受けた後のものに限る。)が12か月以上ある方が支給の対象となります。その上で、

介護休業期間中の各1か月毎に休業開始前の1か月当たりの賃金の8割以上の賃金が支払われていないこと
就業している日数が各支給単位期間(1か月ごとの期間)ごとに10日以下であること。(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日以下であるとともに、休業日が1日以上あること。)ハローワークHP

会社によって就労規則は異なるため、自分の会社がどのような制度をとっているかは確認する必要があります。

「介護」は想像以上に大変なこともある

介護の内容は、要介護者の状態で大きく変わります。人によって、置かれる状況や介護対象となる方との心的距離は異なります。

  • 自分しか介護できる肉親が残っていない
  • 兄弟が結婚しており、自分しか独身者がいない
  • 経済的に老人ホームや病院に入れることができない
  • 子供の自分が親の世話をするのは当然と考えている
  • 親戚から「介護をしないなど親不孝」と言われる

など、自分自身の考えはもちろん、それ以外の外部の声によって介護を迫られることもあるでしょう。たとえどんな状況であれ「介護離職」を選ぶ前に、自分のこの先がどうなっていくのかを考える時間を設けましょう。

介護離職を決意したあなたがやるべきこと

介護離職をするしないに関わらず、あなたが介護することを決意したならば「自分たちだけで頑張る」選択はオススメしません

わたしの場合は大学病院から「地域連携システム」についての説明を受け、複数の選択肢を教えてもらいました。ここでは、そこで教えてもらったやるべきことについて紹介します。

訪問診療や訪問看護を利用する

在宅での介護を決意した場合には、「訪問診療」「訪問看護」の相談を行いましょう。

定期的に医師に自宅にて診察を行ってもらい、投薬や緩和などの指針を相談します。また、定期的に看護師に訪問してもらい、様々な介助を行ってもらうこともできます。

どちらも緊急時には24時間連絡を受け付けてもらえます。当然、他にも複数の患者さんを受けもっている場合があるので、すぐに来れない場合もありますが確実に訪問してもらえます。

地域連携システムの充実度は地域によって差がある

この「訪問診療」に関わる地域連携ですが、各都道府県市町村で差があるのが現状です。わたしが住んでいた地域には地域連携のシステムがある程度整っていましたが、そうでない地域もあるでしょう。

ですので、必ず事前に病院で相談を行うようにしましょう。

「介護施設」や「ホスピス」を利用する

介護といっても自宅介護が全てではありません。施設を利用することも選択肢の一つです。

老人向けの介護施設

終末期患者でない要介護者の場合は、介護施設に入所するという選択があります。これについては多くを語る必要はないでしょうが、「老人ホーム」などの施設が該当します。

基本的には施設に入所して、休日などにたまに家に帰宅するケースもあれば、定期的に短期間の入所を繰り返す「ショートステイ」もあります。わたしの友人にも半身不随になった父を、在宅と施設の交互利用で介護している人がおり、ショートステイを積極的に活用しているようです。

週末ケアを専門とした「ホスピス」

ホスピスは単純な介護を行う施設ではなく、余命が短い患者の週末ケアを行う施設です。2018年現在で入所対象となる患者は「癌」「AIDS」の患者のみです。

施設によって違いはありますが、ホスピスには以下のような特徴があります。

  • 24時間の見舞いが可能
  • 基本的に治療は行わない(点滴も最小限)
  • 延命処置は行わない(心電図もつけない)

ホスピス専門の病院もあれば、総合病院の一部病棟で対応している場合もあります。いずれにせよ、医師と看護師が常駐しているため不安は少ないでしょう。ただ、看護師数も限られているため、患者が苦しい時に付きっきりになれる訳ではありません。

ですので、家族や近親者の介護支援は必要です。ただ、24時間いることができるとはいえ、家と違った環境にずっと居続けるのは介護側も困難となります。

また、施設数が少ないというのが現状です。わたしが住んでいる長崎ではホスピスは2ヶ所しかなく、しかもベッド数も限られています。

介護離職前の在職中の転職も考慮に入れる

介護離職を行う場合は、仕事を決めずに「失業保険」を受給することになる人も多いでしょう。ただ、一旦離職すると年齢や経験によっては再就職のハードルも上がりやすいので、在職中に転職活動を行うのも重要な選択肢です。

介護離職に伴う転職の場合は、重要になるのはおそらく「勤務地」です。介護のことを考えながら自分で転職を行うことはかなり負担になりますので、転職エージェントの活用が的確です。

エージェント活用時に「勤務地」や「介護について」相談しておけば、それに伴った求人を紹介してくれます。

また、連絡タイミングなどもこちらでコントロールは可能ですので、「求人検索」や「応募・試験調整」などの最も負荷のかかる作業はエージェントに任せるようにしましょう。

介護で最期を看取っても後悔はある

自分では後悔がないようにと「介護離職」を選んで自宅で母を看取りましたが、それでも何らかの後悔は残っています。

  • もっと母との時間を多くとればよかった
  • もっと体が動くうちに出かければよかった
  • あの時、もう少し優しく接すればよかった
  • 母が苦しいのに家に連れてきてよかったのか

こういったことに、いずれ折り合いがつくかはわかりません。どんな状況であれ、何をやったとしても、こういった考えは浮かぶのだろうと感じています。。

人によって選択は異なるので、後々になって自分を責めるようなことだけはやめて欲しいと思います。

まとめ

「介護」は高齢化社会の今では、多くの人が直面する課題の一つです。ただ、人にはいろいろな状況があります。あなたが介護離職を選ばなかったとしても、それを咎める権利は誰にもありません。

離職をすることはリスクもありますので、じっくり家族とも話をしましょう。

人は必ず死にます。親よりも自分が早いかもしれません。死は避けられないからこそ、生きているうちに死について恐れずに語りあって欲しいと思います。

わたしを含め、家族は明確に死について言及することを避けていました。それは母がはっきりと言わないこともありましたが、やはりみんな怖かったのだと思います。

死に瀕した病の人は死ぬ確率は高いですが、健康な人でも何が起こるかわかりません。ですので、話せるうちに一度でも「死」について共有することを経験者として勧めます。