職場におけるハラスメントの労働局への相談件数は増加傾向にあります。パワハラに関していえば、2019年度の相談件数は87,670件で、10年間で約2.5倍となっており、個別労働紛争の実に25%ほどを占めています。
代表的な職場のハラスメントには、パワハラやセクハラ、マタハラなどがあり、過度なストレスによって精神障害の原因となり、労災に認定されることもあるのです。
今回は、職場におけるハラスメントの定義といった基礎的な内容や、職場でのハラスメントの相談先について紹介します。
1.ハラスメント対策は事業主の義務
2.職場におけ3大ハラスメント
2.1.パワーハラスメント
2.2.セクシュアルハラスメント
2.3.マタニティハラスメント
3.ハラスメントについての相談窓口
まとめ:ハラスメント対策は事業主の義務
職場におけるハラスメント対策は事業主の義務
職場でのハラスメント行為に関しては、セクハラやマタハラに関して措置義務が設けられていました。そして、2020年6月1日での『労働施策総合推進法』改正によって、職場でのパワハラに関しても事業主が対策しなければならないこととなりました。
ハラスメントは、どうしても被害を受ける側が弱い立場であることも多く、ハラスメントの実態が顕在化していないこともあります。
しかし、会社の健康経営のためにはハラスメントの防止と対策は必須であり、事業主は経営責任を果たすためにも防止策を練らなければならないのです。
ハラスメント起因の精神障害の判断
職場におけるパワハラなどのハラスメントが起因と考えられる精神障害の判断には、厚生労働省が定める「心理的負荷による精神障害の認定基準」に記載されている、心理負荷のレベル分けが用いられます。
2020年の改正からは、「パワーハラスメント」についての労災認定基準が明記されています。
代表的な職場におけるハラスメント
職場におけるハラスメントには、大きく分類して以下の3つがあります。
- パワーハラスメント:パワハラ
- セクシュアルハラスメント:セクハラ
- マタニティハラスメント:マタハラ
それぞれについて、詳細を説明します。
パワーハラスメント:パワハラ
職場で発生するパワハラに関しては、以下の3つ要素を満たす場合という明確な定義が紹介されています。
- 優越的な関係を背景とした言動であって、
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
- 労働者の就業環境が害されるもの
注意して欲しいのは、必ずしも「上司などの立場が上の者」が行うものだけがパワハラに該当しないことです。
同期はもちろん後輩からのハラスメント行為もパワハラに該当し、読者であるあなたが同僚に対して行うこともパワハラ認定されることがあります。
職場でのパワハラ防止が義務化
パワハラに関しては、『労働施策総合推進法』の改正により防止措置が義務付けられているため、自社でハラスメント防止制度が設けられていないならば、「パワーハラスメント対策導入マニュアル」なども活用した上で、防止策を練る必要があります。
パワハラの6類型
パワハラには、大きく6つの類型が紹介されています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 過大な要求
- 過少な要求
- 個の侵害
- 人間関係からの切り離し
【1】身体的な攻撃
意図的に、相手を殴ったり物を投げつけたりするような行為。
【2】精神的な攻撃
相手を罵倒したり、人格を否定するような言動を行ったり、メールに中傷的な言葉を書くなど、精神的な苦痛を継続的に与えるような行為。
【3】過大な要求
新卒者などの採用直後の者や異動直後の者など、業務経験の浅い者が到底遂行できない業務を強いたり、肉体的に苦痛を伴うような業務をさせること。
【4】過少な要求
その人の役職や立場に照らし合わせて、全く見合わないレベルの低い仕事ばかりを与えたり、仕事自体を与えないような嫌がらせ行為。
【5】個の侵害
同僚が嫌がるようなプライベートな情報を他の人に漏らしたりするなど、個人の私的部分に過剰なまでに立ち入る行為。
【6】人間関係からの切り離し
同僚のことを他の社員と結託して無視し続けたり、人がいない個室に隔離したり強制的に自宅勤務を強いるなど、他の社員との交流を意図的にシャットアウトする行為。
自分が受けているパワハラを6類型に分類するには?
厚生労働省が運営するwebサイト「あかるい職場応援団」では、受けているパワハラが6類型のいずれに該当するかを簡易チェックする事もできます。
引用元: 厚生労働省:あかるい職場応援団
ハラスメント発生の際の相談先の情報や、労働裁判事例、他社でのハラスメントに対する取り組みなどもまとまっているwebサイトですので、労働者はもちろん事業主にも参考になる情報が多くあります。
パワハラ認定時の罰則
パワハラに関しては、罰則に関する法律は現状存在しないため、「民法」や「刑法」が適用されることとなります。
セクシュアルハラスメント:セクハラ
セクシャルハラスメントは、職場において「性的な言動(や行為)」によって、労働者の労働条件や労務に対して不利益を生じさせる行為のことです。
セクハラに関しては、『男女雇用機会均等法』により、性差による不利益の発生やセクハラ防止に関する措置義務が事業主に対して課せられています。
自社以外での行為もセクハラに認定される
セクハラに関しては、例えば他社の得意先から自社の女性社員が性的な発言をされた場合など、「他社社員→自社社員」のケースや、逆に「自社社員→他社社員」のセクハラも事業主は対応しなければいけません。
事業主は自社社員へのセクハラ禁止を説明するのはもちろん、他社社員から受けたセクハラ対しても毅然とした行動が求められます。
職場で発生する2つのセクハラ
職場におけるセクハラには、大きく分けて以下の2種類があります。いずれも、セクハラを受けた労働者が、精神的だけでなく労働上の不利益を被ることとなります。
- 対価型セクシュアルハラスメント
- 環境型セクシュアルハラスメント
【1】対価型セクシュアルハラスメント
セクハラに該当するような性的な行為を労働者が拒否した際に、その労働者を解雇したり降格や減給を行うなど、労働上の不利益を与えること。
【2】環境型セクシュアルハラスメント
職場において、セクハラ行為を行われた労働者が働く意欲を失ったり、同僚がアダルトサイトなどを閲覧しているのが目に入り、業務のやる気を削ぐような状況が発生すること。
セクハラ認定時の罰則
セクハラに関しても、パワハラと同様に明確な罰則は定義されていないため、「民法」や「刑法」が適用されることとなります。
マタニティハラスメント:マタハラ
マタハラは、職場における妊婦や産後の女性に対するハラスメント行為のことで、『男女雇用機会均等法』と『育児・介護休業法』により、2017年からセクハラと同様の措置義務が事業主に課されています。
また、女性だけでなく、男性が育児休暇を取る行為を妨げることなどもハラスメントに該当します。
代表的な2つのマタハラ
マタハラも代表的な2つの類型があります。
- 制度等の利用への嫌がらせ型
- 状態への嫌がらせ型
【1】制度等の利用への嫌がらせ型
産休制度の利用や時短勤務を上司に相談したが、聞き入れてもらえず、退職を促されたり査定を下げるなどと言われること。
【2】状態への嫌がらせ型
妊娠して身重な状態の労働者に対して、直接差別的な発言をしたり、周囲の人と結託して働きにくい雰囲気になってしまうこと。
職場でハラスメントが発生した場合の相談先
労働者は、職場でハラスメントが発生していると感じた際には、事業主や総務・人事などへ相談するのはもちろん、社内での相談が難しい場合には、公的な相談窓口も活用しましょう。
ハラスメントに関する相談窓口
ここでは、職場でのハラスメントの相談が可能な相談窓口の一部を紹介します。
総合労働相談コーナー(動労局)
ハラスメントに限らず、解雇や賃金引き下げなどの労働問題全般の相談を受け付けている。各都道府県にある労働局で相談コーナーがある。
都道府県労働委員会・都道府県庁
労働者と雇用側で発生するトラブルの解決支援など、個別労働紛争のあっせんを行なっている。
みんなの人権110番
職場に限らず、ハラスメントや差別などの人権問題についての相談ダイヤル。電話をかけることで、管轄の法務局などに電話がつながる。
かいけつサポート
労働関係の紛争の解決サポートを行なっている、法務大臣の認証を受けた民間事業者を紹介してくれるサポートサービス。
ハラスメント悩み相談室
厚生労働省の委託事業として、ハラスメント関連の相談を請け負っている。電話相談はもちろん、メールでの相談も受け付けている。
事業主や人事担当者向けに、社内で発生したハラスメントへの対応についての相談も受け付けている。
まとめ:ハラスメントに対する事業者の義務
職場におけるパワハラやセクハラなどのハラスメントの増加を受けて、事業主に対してハラスメントの防止が義務付けられ始めています。ハラスメントに関しては、発生防止だけでなく発生した後のケアや連絡体制の構築も重要です。
厚労省が発行しているハラスメント対策マニュアルを参考にするのはもちろん、ハラスメントの相談窓口を活用するなどして、職場におけるハラスメント対策の仕組みづくりを徹底しましょう。