「QWL:労働生活の質」の向上|メンタルヘルスに必須の職場改善

メンタルヘルスマネジメントにおいては、職場の改善は必須のアクションです。その中でもQWLに関する取り組みは、ワーク・ライフ・バランスにも関わる重要な要素です。

ここでは、企業のメンタルヘルス向上に必要な「QWLの向上」に関して、その成り立ちや具体的な施策について紹介します。




QWLとは?

QWLとは、「Quality of Work LIfe」の略で、日本語では「労働生活の質」と訳されます。QWLの概念は以下の通りです。

非人間的な労働から人々を開放し、労働生活全体の豊かさを追求する

また、QWLはその時代に合わせて捉えられ方も変化しています。

1970年代,80年代は,QWL は欠勤や離職防止,生産性向上等との関連性で議論されることが多かった(つまり従業員の組織行動との関連性で議論されてきた)。しかし,90 年代以降は仕事と(家庭)生活の調和に代表される雇用者の福利(Wellbeing)の向上との関連での議論が盛んとなっている(Hammer&Sanchez2007)

QWLは、概念だけではなく、実際に労働生活の質を向上させるための具体的な問題解決のことを指します。

QWLの向上には、「ソシオテクニカル・システム」の考え方と、職務の「拡大・充実・再設計」の考え方が普及しています。




QWLの向上施策:ソシオテクニカル・システム

「ソシオテクニカル・システム」は英国で1950年代から普及し始めた考え方です。仕事に利用する技術と働く人(集団)の特徴を統合し、企業においてそれらが最適なパフォーマンスを示し、組織も会社も良い結果を得ることを目的としています。

例えば、今までIT化を進めていなかった製造メーカーに「AIの技術」を導入し、生産効率の向上や欠点率の減少などを達成して労働者の負担を減らすといったものが該当します。

技術と労働者のどちらの能力も引き出す必要があるため、とくに労働者に対しては、QWLとして以下のようなことに注意を払う必要があります。

  • 技術導入後でも安全に作業できる環境
  • 技術の変化にも対応できるための成長支援
  • 職務における公平な評価と対応した報酬
  • 個々人の能力向上につながる職務分担
  • 誰もが昇進の機会を得られるような機会の創出

いずれも、現代の企業においても重要視され続けていることですが、これからはAI化などの新技術導入が進んでいくため、労働者の生活の質の向上はもちろん「働く場所」の確保も重要となります。

企業側が改めて「ソシオテクニカル・システム」を意識して、企業の健康運営を考えていく必要があるのです。




QWLの具体的施策:職務拡大・職務充実

QWLの向上を目指す上での具体的施策である「職務拡大」や「職務拡充」は、アメリカ発祥の考え方です。それぞれについて説明します。

職務拡大

職務を行う上で、個人が狭い領域で仕事をし続けていると、いずれ飽きなマンネリが発生します。その解消策として考えられたのが「職務拡大」です。
この方法は単純です。個人が担当する仕事の「数」と「種類」を増やすという方法で、仕事の質自体には変化はありません

一見、様々な仕事を経験することができるので、非人間的ではないと思われがちです。ただ、やりがいのない仕事や単調な仕事ばかりではただの「作業」にしかならず、個人のQWLの向上には結びつきにくいのが現状です。

また、結果的に仕事量が増えるだけで、残業などの就業時間増加につながる可能性もあります。

職務充実

「職務充実」は、仕事に対する「達成感」を向上させるための取り組みです。
人は単純な仕事を機械的にこなし続けることに、満足感を得られにくく、コントロールされているという気持ちが強くなります。また、その結果としてもらえる「給与」の向上だけでは満足できなくなります。

仕事への満足感に関しては、『ハーズバーグの二要因論』という代表的な理論があります。

人は外的要因(昇進、給与など)よりも、内的要因(達成感、責任、人からの承認など)の充実によって、仕事に対する満足感を得ることができるのです。

この「職務充実」では、仕事に対しての裁量権を労働者に与える方法です。自ら仕事のやり方を考えて管理することで、内的要因の充実を図ろうというQWLの向上策なのです。

ただ、個人の職務への満足度と、個人の仕事への取り組みとの相関に関する十分な相関性が分かっておらず、効果がはっきりしないという問題もあります。




QWLの具体的施策:職務再設計

「職務再設計」とは、「職務拡大」と「職務充実」をまとめた考え方です。仕事の内容が多様に分岐してきた現代では、「職務拡大」が起こることは避けようがありません。

そのような中でも「職務充実」を図ってQWLを向上させるためには、労働者の職務状況から「職務再設計」を行う必要があるのです。

この「職務再設計」によって、以下のような効果を得ることができます。

  • 個人(労働者):高い動機づけと満足感
  • 組織(企業):高い業績や離転職率の低下

次に、「職務再設計」を行う上で理解が必要な、2つの重要なモデル特性について紹介します。

中核的職務特性

職務再設計を行うにあたって、従業員の満足感に関する調査や、欠勤や離転職につながる特性についての研究が行われました。

どのような職務であっても、以下の中核的職務特性が、従業員の「動機づけ」「満足感」「業績」「離転職行動」に影響を及ぼすとされています。

  1. スキル多様性:多様なスキルや能力が必要な職務なのか?
  2. タスク一体性:全体像が明らかで、初めから終わりまで見渡せるか?
  3. タスク重要性:世の中にとってどれくらい重要な影響があるか?
  4. 自律性:業務遂行上どの程度の自由、独立性、権限があるか?
  5. フィードバック:明確な評価やフィードバックがあるか?

重要な職務特性として「フィードバック」が挙げられていることに注意しましょう。職務の設定だけではなく、きちんとしたフィードバックによる継続的な改善活動が「職務再設計」には必要なのです。

職務特性モデル

職務特性モデルは、中核的職務特性に沿った職務再設計によって、労働者個人の仕事にどのような結果が現れたかを評価するモデルです。

中核的職務特性の中の、「スキル多様性」「タスク一体性」「タスク重要性」が揃っている職務では、個人は仕事に対して有意義感を感じることができます。
自律性は「職務充実」につながり、フィードバックによって、自分がその企業の中でどれほど必要とされているかを認識する充足感を左右します。

ハックマンとオールドハムは、労働者個人が職務対して抱く潜在的動機づけを数値化する指標「MPS(Motivation Potential Score)」を作りました。

MPS

職務特性モデルの軸となる中核的職務特性を5つに限定することへの反発もありますが、今まで数値化できていなかった「QWLの結果」を、見える化しているという点は評価されるべきことです。




まとめ:QWLの向上に向けて

QWLの向上には、メンタルヘルスマネジメントにおいても重要なポイントです。従業員のメンタル面への影響は、職場環境だけでなく「職務への満足度」も関わってきます。

パワハラやセクハラ、劣悪な作業環境の改善といったことだけが、メンタルヘルス対策ではありません。従業員にとって、「その会社で働く意義」を見出せるように、QWLの向上についての取り組みも意識しましょう。

ただ、QWLの向上への取り組みも世の中の流れによって変化せざるを得ません。QWLに関わるような要因について、時代の変化に合わせた知識を得ることも忘れないようにしましょう。