セルフキャリアドック
  • 若手社員がすぐに離職して定着してくれない
  • 中堅社員のモチベーションが低下している
  • 社員に覇気がなくうつ病のような症状が見られる

企業において、このような問題と直面していないでしょうか?

これらの問題が発生する原因の一つとして、従業員のキャリア設計の悩みに対して企業側からの積極的なアプローチがないことが考えられます。

厚生労働省は、企業が定期的なキャリアコンサルティングを行う機会を設け、従業員のキャリア設計を支援するために「セルフキャリアドック」という制度を施行しています。
ここでは、セルフキャリアドックについて、その制度の内容や導入・実施の詳細について紹介していきます。




セルフキャリアドックとは?

昨今、IT業界におけるAIの加速度的な普及や、ビジネスのグローバル化などの環境変化もあって、企業はもちろん働いている社員も働き方の変革を迫られています。

変化の激しい現代にあって、『職業能力開発促進法』では、社員は自らの職業生活設計(キャリアプラン)を行う必要があり、企業は社員の職業能力開発を支援する必要があると規定されました。

セルフキャリアドックは、従業員のキャリア設計を支援するための制度であり、従業員のキャリアコンサルティング(職業生活設計の支援)を行う機会を提供することを主たる目的としています。

ここでは、セルフキャリアドックのメリットや、セルフキャリアドックの進め方について説明します。

【共有】セルフキャリアドックのパンフレット

厚生労働省では、セルフキャリアドック制度の仕組みや導入についてパンフレットを作成しています。こちらも時間がある時に確認してみましょう。

セルフキャリアドック導入のメリット

セルフキャリアドックは、従業員のキャリアコンサルティングを行う機会の提供を目的としています。
従業員の職業生活設計を支援する制度の導入により、企業や働く社員にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか?

セルフキャリアドッグ導入による効果

セルフキャリアドックは、社員にとってはもちろん、企業にとっても導入の効果を得られる必要があります。社員にとっては、キャリアコンサルティングによって自らのキャリアプランを定期的に見直し、モチベーションを高く維持できることが重要です。

また、企業にとっては、人材定着はもちろん、目的意識が明確になった社員の活躍による組織の活性化や、労働生産性の向上などが期待されます。




セルフキャリアドックで解決する課題

セルフキャリアドックでは、従業員のキャリアに関わるさまざまな問題に対処することを目的としています。その中でも、4つの大きな課題について紹介します。

新卒採用者の離職問題

新卒社員の退職理由」の記事でも紹介していますが、大卒新入社員の3年以内離職率は約3割となっており、高卒となると離職率は4割です。会社において今後の活躍が期待される人材が、3人に1人は離職していく現状を改善する必要があります。

そのためには、積極的にキャリア設計に関わって「キャリアパス」を明確にするなど、今後若手に対して期待することを共有する必要があります。

育児・介護休業者の職場復帰率の低下

育児・介護などで休業をした社員の、職場復帰支援も重要な課題です。支援制度が的確に運用されていることは当然です。それだけではなく、復帰プランを一緒に作成するなど復職しやすいような関わりをすることも重要です。

今後は、介護離職が増える可能性もあるため、会社の支援制度などを社員にしっかり伝えていく必要もあります。

中堅社員のモチベーション低下

30代や40代の中堅社員層は、「人生半ばの過渡期」といった発達課題を向かえるなど、仕事上のキャリアに関わらず様々な課題とぶつかります。

そういった転機が多い中で、自分が職場において果たすべき役割に対して葛藤することもあります。そのような中堅社員と一緒に、いま一度明確なキャリアプランを見直すことで、モチベーションを醸成する必要があるのです。

シニア社員の生涯キャリア設計

シニア社員に関しては、労働年齢が高年齢化していく中で、企業においてどのような働き方ができるのか不安を覚える人も増えています。これまでとは職務レベルが変わっていく中で、どうギャップを埋めていくかも重要です。

シニア層がその経験を活かしてどのように会社に貢献できるか? セカンドキャリアについて一緒に考えることも、セルフキャリアドックでは重要なのです。




セルフキャリアドックの進め方

セルフキャリアドックの目的や、導入によるメリットはおわかりいただけたでしょうか?

ここからは、セルフキャリアドックの導入や進め方について説明します。厚生労働省のパンフレットにもあるように、以下の5つのステップでセルフキャリアドックは進めていきます。

  1. 人材育成ビジョン・方針の明確化
  2. セルフキャリアドック実施計画の策定
  3. 企業内インフラの整備
  4. セルフキャリアドックの実施
  5. フォローアップ

【1】人材育成ビジョン・方針の明確化

新しい制度を導入するにあたっては、まずその制度の目的を明確にする必要があります。セルフキャリアドックを行うことで、会社や従業員によってどのような効果があるのかを明確にしなければいけません。

そのためには、経営者参画のもとで「人材育成のビジョン」を決め、必ず従業員に周知しなければいけません。セルフキャリアドックは、会社全体でスクラムを組んで行うわなければ、その効果を発揮できないからです。

【2】セルフキャリアドック実施計画の策定

セルフキャリアドックは「キャリア研修」による学びの場の提供や、最も重要な活動である「キャリアコンサルティング面談」の実施が必要となります。実施計画の策定では、これらの活動を「どのように?」「いつ?」行うかといった全体スケジュールの作成を行わなければいけません。

また、セルフキャリアドックの効果を高めるために、面談シートや報告書はもちろん、社員の意見を集めるアンケート用紙などのフォーマットの準備も必要となります。

【3】企業内インフラの整備

セルフキャリアドックの計画を策定した後は、インフラの整備が必要となります。セルフキャリアドック実行における責任者の決定はもちろん、キャリアコンサルティング面談で必要な「キャリアコンサルタント」の確保が必要となります。

また、制度実施による効果を高めるためには、社員の協力が不可欠です。現場の管理職層の理解はもちろん、社員に対しても積極的な参加を促す必要があります。

その際には、社内で共通認識を持つために、セルフキャリアドック独特の言葉をそれぞれが理解できるように説明しましょう。




【4】セルフキャリアドックの実施

いよいよセルフキャリアドックの実施となります。開始にあたっては、まず従業員を対象とした説明会の開催を行い、いま一度活動の目的の共有や「外部キャリアコンサルタント」などの協力者の紹介を行いましょう。

説明会の後には「キャリア研修」を実施します。ここでは、キャリア面談の効果を高めるために、キャリア設計(棚卸し、目標設定、アクションプラン策定)について従業員の理解を深めましょう。ワークなどを通して、自らのキャリアを振り返る機会となると尚いいでしょう。

対象者への研修が終わった後には、個別でのキャリアコンサルティング面談を実施します。個々人のキャリアの棚卸しや目標の設定などが大きな目的となります。

キャリアコンサルタントは、従業員の「自己理解」や「仕事理解」を支援し、従業員と目標を達成するための方策を決定し、実行支援を行います。

【5】フォローアップ

セルフキャリアドックは、ただ研修や面談を行えばいいわけではありません。面談で得られた情報について、開示可能な情報については人事担当などと相談し、個々人のキャリア上の課題と向き合う必要があります。

場合によっては継続的な面談を行ったり、上司が関係する場合は、上司へのアプローチも行います。

また、セルフキャリアドックは、単発で行うだけでは効果は得られません。定期的に研修や面談を実施することにより、効果も高まっていくのです。そのためには、フォローアップをしながら、次回のセルフキャリアドックをさらに良いものとするためのフィードバックも欠かせません。




企業外のキャリアコンサルタントを利用するメリット

セルフキャリアドックを実施するためには、キャリアカウンセリングについての専門性を有する「国家資格キャリアコンサルタント」保有者が必須となります。

社内のキャリアコンサルタント資格所有者でも、制度上は面談の実施は可能です。ただ、企業内のキャリアコンサルタントでは、同じ社員である従業員はすべてを打ち明けることが難しいという問題があります。

セルフキャリアドックの効果を高めるためにも、企業外のキャリアコンサルタントの活用を検討しましょう。

企業外キャリアコンサルタント利用の際の注意点

企業外のキャリアコンサルタントの場合、守秘情報の開示をしてもらえないと考える人もいますが、開示範囲については面談を行った従業員と相談の上決定しており、必要な情報は共有されます。

企業外資源を活用する際に重要なのは、企業の経営方針や人材に関わるビジョンなどの情報を、事前に共有することです。企業と外部のキャリアコンサルタントが共通認識と目的を持って、セルフキャリアドックを行う必要があります。

また、連絡の窓口は明確にしておき、連絡を取りやすい環境を構築しましょう。

助成金について

セルフキャリアドック制度は、導入にあたって助成金が支給されていましたが、2018年3月までで制度が撤廃されました。これに変わる助成金としては、『人材開発支援助成金』が、2019年4月から支給されています。

助成金の受給にあたっては「ジョブ・カード」の提出が義務付けられています。助成金受給用件を満たす「ジョブ・カード」作成に際しては、キャリアコンサルタントの面談が必要となります。(現状、ジョブカード作成アドバイザーでも対応は可能です)

セルフキャリアドック導入支援

厚生労働省では、セルフキャリアドックの普及を目的として、『セルフキャリアドック普及拡大加速化支援サイト』を開設しています。

制度の説明はもちろん、制度導入に関する説明会の開催予定日などが紹介されています。現状は、「東京、大阪、札幌、名古屋、博多」といった主要都市のみでの開催となっています。

また、このサイトでは、セルフキャリアドック導入のモデル企業事例が紹介されています。自社への導入を検討する際に、参考にしてみてはいかがでしょうか?




まとめ:セルフキャリアドックの導入

セルフキャリアドック制度の仕組みや進め方について説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

  • セルフキャリアドックは社員の職業生活設計を支援する
  • 企業にとっても従業員の定着や職場活性化の効果が期待できる
  • セルフキャリアドックは「5つの手順」で進める
  • セルフキャリアドックでは企業外キャリアコンサルタントの利用も検討する
  • 助成金はなくなったが「人材開発支援助成金」の利用にも活用できる

セルフキャリアドックは、導入において手間を感じる企業も多いでしょう。ただ、一度仕組み化してしまえば、従業員のさまざまな悩みを解決する場を築くことができます。

既に導入している企業の例も参考にしながら、徐々にあなたの企業にあった制度を確立してみましょう。