企業に就職して仕事を継続的に行なっていくには、その職務を全うするための「職業能力」が必要となります。
それと同時に、この先自分がどのようなキャリアを築き、そのためにどのような職業能力を培って行く必要があるか考えた上で行動することも重要となります。

ここでは、仕事を行なっていく上で必要な「職業能力」について、以下のような項目を、厚生労働省の統計データや関連法案を交えて説明していきます。

どのような職業能力が必要なのか?
企業の能力開発への取り組みの実際
職業能力の評価基準
職業能力開発の支援制度

職業能力は常に向上が求められますが、個人で高めていくには限界があります。企業側が行うべき支援もあるということを、従業員と雇用側の双方が認識しておきましょう。

職業能力に関する2つの概念

仕事を行う上では、日々発生する様々な要求や変化に対応していくことができる能力が必要となります。厄介なことに、求められる能力自体も一定ではなく変化していきます。

こういった背景があることから、職業能力に関しては2つの重要な概念があります。それが「エンプロイアビリティ」「コンピテンシー」です。

エンプロイアビリティ

エンプロイアビリティは「雇用されうる能力」とも呼ばれ、日本経団連では以下の2つの能力の統合であると定義されています。

  1. 「労働移動」を可能にする能力
  2. 当該企業の中で発揮され、「継続的に雇用」されることを可能にする能力

これらを分かりやすく言い換えると、以下のように受け止めることもできます。

  1. 就職や転職はもちろん、社内での部署異動などの変化にも対応できる能力
  2. 企業内で自分の強みを発揮でき、変化にも対応しながら継続的に活躍できる能力

いずれにせよ、目まぐるしく変わる雇用・就労状況に適応することが必要とされているようです。
このためには、個人はもちろんですが企業側からも従業員の能力開発を支援する取り組みが必要とされています。

コンピテンシー

コンピテンシーは、「成功を生む行動特性」とされています。「特定の分野における成功者に学ぶ」と考えてもらえるといいでしょう。
職業能力におけるコンピテンシーに含まれる項目として以下のようなものがあります。

  • 率先行動力
  • 顧客指向性
  • 達成指向性
  • 多様性尊重
  • 財務感覚
  • 問題解決力

これらの項目の能力を向上させる経験や学習を積んで、成功を生むレベルまで高めるという考え方です。

職業能力開発の基本計画

職業能力は個人のみで向上させていくことには限界があります。

例えば、営業職に「コミュ力」「プレゼン力」「交渉力」が必要だとしても、会社からプレゼンを行う機会が与えられなければ「プレゼン力」は育成されません。極端な例ではありますが、企業側からの適切な職業能力発達機会を与えられる必要もあるのです。

こういった「職業能力の開発」に関しては、厚生労働省から基本計画が発行されています。

職業能力開発基本計画

最新の『第10次職業能力開発基本計画(平成28-32年度)』では、「生産性向上に向けた人材育成戦略」をメインとして掲げ、以下の4つの方向性を示しています。

  1. 生産性向上に向けた人材育成の強化
  2. 「全員参加の社会の実現加速」に向けた職業能力底上げの推進
  3. 産業界のニーズや地域の創意工夫を活かした人材育成の推進
  4. 人材の最適配置を実現するための労働市場インフラの戦略的展開

これらを達成するために、以下のような施策を展開するとされています。

  • IT分野の講座拡充(職業訓練など)
  • キャリアコンサルタントの質の保証
  • セルフキャリアドックの導入推進
  • 育児に影響が少ない職業訓練の設定(短時間訓練コース、託児支援)
  • 中高年や障害者への支援や訓練の充実
  • 産学官連携による職業訓練の開発・検証
  • 総合的な訓練計画を策定し、グローバル化に対応した人材育成を行う

注意文言を一部わかりやすく変更しています。

とくに「ITへの対応」「グローバル化への対応」「女性、中高年、障害者支援」「職業訓練の利便性向上」などに着目されていることがわかります。

また、キャリアコンサルタントについても言及されています。「ジョブカードの作成支援」はもちろん、『職業能力開発促進法』において語られている労働者の「職業生活設計」や職業能力開発支援が期待されています。

    「職業生活設計」とは、労働者が、自らその長期にわたる職業生活における職業に関する目的を定めるとともに、その目的の実現を図るため、その適性、職業経験その他の実情に応じ、職業の選択、職業能力の開発及び向上のための取組その他の事項について自ら計画することをいう。

個人としても、支援を受けるだけではなく「職業生活設計」を行なって自発的な能力向上に取り組む必要があります。社内でキャリアコンサルタントに相談ができる企業もありますので、一度利用してみることをお勧めします。

能力開発基本調査に見る能力開発の実際

職業能力の開発について基本計画が策定されているのはわかりましたが、企業での実際の運用や効果はどのようになっているのでしょうか?
能力開発支援の実施状況については「能力開発基本調査」で調べることができます。

この調査は「企業調査」「事業所調査」「個人調査」の3つで成り立っています。『平成30年度能力開発基本調査』の結果から、現状を確認してみましょう。

注意以下、『平成30年度能力開発基本調査』のデータ引用や一部データから新規にグラフを作成しています。

「企業調査」結果

調査結果では、企業での社員への教育訓練は7割以上が「OJT」を主体として行なわれていることが示されています。

56.1%の企業が、職場外での教育訓練である「OFF-JT」や「自己啓発」への費用支援も行なっていますが、平成30年度は前年度に比べていずれも支援平均額が減少しています。

能力開発の責任主体はほぼ8割が企業主体となっていますが、職業能力評価の処遇への関連づけは7-8割もあります。
ただ、「事業内調査」では、職業能力開発計画を作成していない事業所が75.4%もあり、計画的な職業能力支援が十分行えていないという現状があります。

こういった状況でもあるので、待遇向上のためには個人での能力開発への計画・実行も重要となります。

「事業所調査」結果

「事業所調査」の中では、「OFF-JT」の状況について説明されています。

平成29年度に「OFF-JT」を実施した企業は77.2%に登り、8割近くが自社で開催しています。
「OFF-JT」の研修内容は、新入社員・初任者研修が76.8%と高く、次いでマネジメント研修49.1%、中堅社員研修48.1%となっています。

また、事業所での人材育成に関する問題点も開示されています。

問題点については実感する人も多いと思いますが、首位の「指導者の不足」は解決が難しい課題でもあります。
職業能力開発推進者の選任を行なっていない事業所が75.7%もあるのが実情であり、指導的な立場の従業員の育成も進めにくい状況にあることが伺えます。

「情報通信業」や「教育、学習支援業」は推進者の専任化が進んでいますが、「複合サービス事業」では選任化が遅れています。

教育訓練休暇・時短勤務制度は9割近くが導入されていない

職業能力の向上には教育訓練が必要とされていますが、教育訓練を行う際の「休暇」「時短勤務」は9割以上の事業所で導入されていません。
教育訓練のために人が抜けると、その分のフォローが難しくなるのが主な理由です。

「休暇」「時短勤務」の導入予定がない事業所が75%程度もあり、個人での自主的な能力向上への取り組みが重視される事態になりかねません。

キャリアコンサルティングの仕組み化はまだ途上

『職業能力開発基本計画』で言及されているキャリアコンサルティングに関しては、企業への導入がまだ半数に満たない状況です。

大企業ほど導入は進めやすく、「金融・保険業」では88.4%も導入が実施されています。

ジョブ・カードの内容を知らない企業が約7割

厚生労働省でも活用を推進している「ジョブ・カード」。「生涯を通じたキャリア・プランニング」や「職業能力証明」を目的として普及を目指していますが、内容まで認知していない事業所が7割近くとなっています。

今後のキャリア設計をする上では、キャリアの棚卸しは非常に重要です。そのために利用できる「ジョブ・カード」ですが、活用以前に知られていないのが現状です。

ジョブカードの詳細: https://jobcard.mhlw.go.jp/advertisement/

「個人調査」結果

「個人調査」では、「OFF-JT」の受講や「自己啓発」を行なった人の割合が確認できます。

「OFF-JT」と「自己啓発」の実施割合はほぼ同じレベルであり、どちらも学歴では大学院卒の実施割合が高くなっています。
「自己啓発」を行うのが難しい理由では「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」が最も多く、正社員では59.3%です。

職業生活設計をどう捉えているか?

『職業能力開発促進法』での個人に関するキーワードである「職業生活設計」への考え方に関するデータは下記の通りです。

「職業生活設計」という言葉自体が受け取りにくいとは思いますが、正社員では自ら設計をしたいと考えている割合が65.8%となっています。

職業に必要な能力を簡単に調べる方法

職務能力の開発には基本計画があり、企業でも様々な取り組みが行われていることがわかりました。では、具体的に「営業職」「事務職」「開発職」などの仕事にはどんな能力が必要なのでしょうか?

仕事を行う上で必要な下記の能力に関して、業種や職種別にまとめたものがあります。それが「職業能力評価基準」です。

  • 知識
  • 技術・技能
  • 職務遂行能力

「職業能力評価基準」は、求職者の採用はもちろん、採用後の社員育成や人事評価にも活用できます。
仕事の内容が「職種、職務、能力ユニット、能力細目」に分類して説明されているので、職業理解にも役立つという特徴があります。

「職業能力評価基準」については、厚生労働省の下記のサイトでよくまとめられています。

「職業能力評価基準」ポータルサイト:https://www.shokugyounouryoku.jp/

各職務の評価基準書のダウンロードもできますので、就職・転職を検討している人はもちろん、現在企業で該当の仕事に従事している人のキャリアアップの参考になります。

人材育成の面では、「キャリアマップ」「職業能力評価シート」といったツールが利用可能で、とくに「職業能力評価シート」は自社利用の際にはカスタマイズも可能です。

自社の人事考課の際に見たことがある人もいるかもしれません。こういった評価のベースがあるので、一度は見ておくことをお勧めします。(まだ未発行の業種もあります)

職業能力開発を支援する制度

職業能力の開発にあたっては、事業種や個人を対象に様々な支援を受けることができます。ここでは、代表的な4つの支援制度について紹介していきます。

キャリアアップ助成金【事業主】

派遣や有期契約労働者などの「非正規雇用」者のキャリアアップ支援(正社員化、処遇改善など)に対して、助成金が給付される制度。

公式参考サイト:キャリアアップ助成金

教育訓練給付制度【個人】

厚生労働大臣が指定する教育訓練講座を受講・終了した場合にもらえる給付金制度。離職者はもちろん在職者でも利用可能で、ハローワークでの教育訓練以外にも、「専門実践教育訓練」がある。
「専門実践給付訓練」の手続きには、基本的にキャリアコンサルタントによるカウンセリングを受けて、ジョブ・カードを作成する必要がある。

公式参考サイト:教育訓練給付制度

技能検定制度【個人】

職務において必要とされるスキルの習得レベルを評価する国家検定制度。機械加工からファイナンシャル・プランニングなど128種類の試験がある。試験に合格すると「技能士」として認可される。

公式参考サイト:技能検定制度

母子・父子家庭の自立支援給付金【個人】

母子・父子家庭の親を対象とした各自治体で行われる就業支援給付金制度。対象となる教育訓練を履修して修了することで、訓練にかかった費用のうち60%が給付される。

まとめ

特定の仕事を続けるには、変化に対応しながら職務能力を向上させることは非常に重要です。どのような仕事にも必要な能力があり、最低限のレベルに到達しなければいけません。

職務能力と一言で表しても、仕事によって求められる能力や適性も変わってきます。自分が望む職業に必要な能力は把握しておく必要があります。

企業側は従業員の能力開発を支援する義務がありますが、企業主体の支援にも限界があります。自分自身の成長のために、どういった学習が必要なのかを確認し、自己啓発としての成長も検討してみましょう。

支援制度も「給付金」「認定制度」など様々なものがあります。自分のキャリアの今後を考えた上で、利用できるものはうまく活用していきましょう。