わたしは、化学系の製造メーカーで新製品開発や新規設備導入、現場の生産力向上といったことを主な業務としていました。製造メーカーの業務では、常に2つの大きな課題と向き合っています。
【1】納期
これは誰しもが常に迫られているものでしょうが、製品開発などでは一回の試作品提出の遅れが致命的な結果を生むケースがあります。
したがって、「納期」は最も重要で遅れることは許されません。そのため、成果物を決められた時間内にしっかりと出すための「スケジューリング」は非常に重要となります。
【2】マルチタスキング
複数の組織で仕事を行う際には必ず陥る「マルチタスキング」。製品開発もそうですが、新規設備導入となるとさらに多くの組織で動く事が要求され、プロジェクト体制で業務を進める事も多くなります。
その際には、複数の部署と関わりながらタスク(=作業)をこなす必要があるため、プロジェクトマネジメントの知識と実践がどうしても必要となります。
「納期」に向けて、「それぞれの部署がどのような仕事をいつまでに実行する必要があるのか?」ということを常に意識しながら、マルチタスクをこなさなければいけません。
ここでは、時間管理=タイムマネジメントを実現できるために、わたしが生の現場や、自分の業務はもちろん業務外での経験で培ってきた「タイムマネジメント」を行う際に最も使いやすく、有効なツールである「ガントチャート」の活用方法について紹介していきます。
プロジェクトマネジメントは「PMBOK」が世界基準
製造現場やIT系の業務で日々行われている「プロジェクトマネジメント」の中でも、とくに「計画」の段階でツールがよく活用されます。
「プロジェクト」とは、簡単に説明すると、特定の成果物を”期間を限定して”完成させることを指します。
プロジェクトマネジメントは、アメリカの「プロジェクトマネジメント協会」が作成し、世界標準となっている『PMBOK(ピンボック):Project Management Body Of Knowledge』で体系づけられています。
ただ、未経験者や経験が浅い人にとっては、この『PMBOK』をそのまま活用するのはかなり難しいのです。
『PMBOK』の中では、プロジェクトを行う上で、「立ち上げ」から「終結」までの「5つのマネジメントサイクル」と「10の知識群」が説いてあります。『PMBOK』を知らない人のために、実際にどのような項目が説明されているかを、以下の表にまとめてみました。
いかがでしょうか?正直に言ってドン引きですよね…
ただ、全ての業務やプロジェクトに対して、これだけの項目を毎回やっているということはありません。この中から、自分が行う業務やプロジェクトにとって必要な項目を抽出して、計画を立案するケースが多いのです。
また、これだけの知識を習得して実戦レベルで使いこなせる人はそういませんし、わたし自身も会ったことがありません。
何よりも、あなたが知識がほぼ無い状態でこれらを実践して使用可能なレベルまで習得するには膨大な時間がかかります。ですので、『ガントチャートの使い方』では”時間管理”にとくに必要な、以下のフェーズに焦点を絞って説明します。
表に記載している通り、専門性が高く、本来の目的である「ガントチャートの作成・活用」を行うために直接的に関係性の深い下記の「知識エリア」に絞ります。
- 4.統合マネジメント
- 5.スコープマネジメント
- 6.タイムマネジメント
- 9.人的資産マネジメント
あなたの日常はプロジェクトで成り立っている
時間管理を行うために必須の考え方!
このシリーズでは、「時間管理=タイムマネジメント」を行うために必要な方法について紹介します。管理対象は何も仕事だけには限りません。「旅行」「休日のアウトドア」などの趣味はもちろん「副業」に至るまで様々です。
例えば「副業」であれば、以下のような時間的制限も考えられます。
- 本業の残業が多く、1日の間で副業に振り分けられる時間がそもそも少ない
- 家族がいるなど、外部要因で時間を削られてしまう
- シフト勤務などにより、仕事の時間が不規則になってしまう
人によって使える時間は変わってくるわけですなので、少しでも「無駄な時間」を減らす必要があるのです。
作業を行う上で最も無駄な時間は、下記のような“迷い”などで生じる「曖昧な時間」「曖昧な行動」です。
- 「今日は何をやろうか?」
- 「あの作業はどこまで進んだかな?」
「曖昧な時間」は”曖昧な決定”によって生まれており、こういったものを排除していくことが時間を有効に使うために重要となります。
そもそも「時間管理」とは、単純に自分の「作業時間」を管理するということではありません。自分の日々の作業に関して、下記のように作業を行う前の段階で計画を建てて実行していくことを指します。
- どのような作業があるのか
- どの作業を”いつ”始めるか
- “いつまでに”終わらせるか
あなたの身の回りの”プロジェクト”を計画的に進めよう!
「プロジェクト」とは、「期間を定められた中で、特定の成果物を完成させる」という意味があります。
あなたが日常生活の中で実施している「料理」や「旅行」といったものも、実はこの「プロジェクト」と近しいものがあります。
- 家族が帰ってくる18時までにカレーを作る
- GWに4泊6日の海外旅行に行く
- 休みの日に友人とトレッキングにいってキャンプを行う
- 転職のために「簿記」の資格を1年以内に取得する
- 彼女(彼氏)が欲しいので、今月中にはコンパに行く
ただ、ある程度経験しているため何となくこなせていたり、期限までに間に合わせる絶対的な理由がないため、効率的に進めるための分析を行っていないだけです。
しかし、ある程度の責任を求められ、期限にも限りがあるものに間しては、やはり準備が必要です。
その際には、プロジェクトマネジメントの知識は有効であり、とくに「やるべきこと・管理すべき項目」を抽出し、作業のタイミングや終了予定といった「スケジューリング」を行うことは最も重要な「時間管理手法」なのです。
あなたの時間を一目で「見える化」するツール「ガントチャート」
ツールがないとあなたの時間は管理できない
結論からいうと「時間管理(タイムマネジメント)」は、ツールが無いと実践することは不可能です。
スケジュールを作成して時間の流れを“可視化”することで、「どのように時間を使い、どう管理していくか?」がわかるので、スケジューリングを実際に行うことが重要なのです。
ここでは、時間管理を行う上で最も応用力の高い”スケジューリングツール”について説明していきます。
「時間」と「作業」を簡単“見える化”!「ガントチャート」とは?
あなたに紹介する時間管理ツールとは、「ガントチャート」です。名前を聞いたことがある、または使ったことがある人もいるでしょう。
作成のルールとしては単純で、「横軸に“時間”」「縦軸に作業(タスク)」を並べて、スケジュールをグラフ化する方法です。
他に明確なルールはなく、矢印で表示をしたり、縦軸が時間になっているケースもあります。
ただ、以下のような工夫があれば、なお管理はしやすくなります。
- 縦軸に時系列にタスクを並べる
- 関連性の高いタスク同士は近くに置く
製造業での「製品開発業務」ガントチャートの作成例
参考として、私が実際に行っている「製品開発プロジェクト」のガントチャートの一部を以下に記載します。
【注】これは私が所属した会社の流れではなく一般的な製品開発のフローです。
典型的な、「複数タスク(業務)」と「複数部署」が絡み合ったガントチャートの例となります。これを見るだけで、わたしが実施している「製品開発」の一連の流れや、それに掛かる期間が、何となく(何となくですよ)見えてこないでしょうか?
一言で「製品開発」と言っても、そのためには市場調査や、製品設計のための他部署との協働、そして実際に市場展開するための顧客への紐付けや評価依頼が必須となります。
また、顧客の要求を満たした後は、「その製品をどう安定して供給していくか?」という課題があり、そのためには製造ラインへの落とし込みが重要となります。
一連の業務をガントチャート化することで、次のタスクを実施するために、事前に終わらせておかなければならないタスクの関係性や、同時に進めていいようなタスクというものも、見ただけでわかると思います。
ガントチャート最大のメリット
この「ガントチャート」の最大のメリットは、「全体の時間の流れが把握しやすい」ということです。
- 目標を達成するために実施すべきタスクにどういったものがあるか
- どういった作業が今後予定されているのか
- どれ位の期間でそのタスクを終了させなければいけないのか
- 他のタスクとの関連性はどのようになっているのか
- 各タスクの担当者は誰か
また、作業の進行予定の青色のバーの下にある余白に、別の色でバーを加えることによって、実際の進行状況をトレースすることもできます。
このガントチャートを作成することで、あなたが今後実際に使用する時間が「見える化」できるのです。
スケジュール帳を見ても、ポストイットを書いて捨てても、ToDoリストを見ても、「時間の流れ」を把握することは困難ですが、このガントチャートならば、一目で把握することができます。
ガントチャートは、複雑に入り組んだ人員構成で作業を行う「製造メーカ」などのプロジェクトマネジメントでも実際に活用しているチャートであり、習得してしまえばその応用力はすさまじいものがあります。
「ガントチャート」の一般生活での例
ガントチャートは「目標達成の期間が決まっている」あらゆるシーンに適用することができます。「製品開発」といった堅苦しい例以外でも、以下のようなケースで活用することができます。
【事例1】「街コン」への参加
「街コン」とは、簡単に言うと”合同コンパを街ぐるみで行うもの”であり、特定の日の「街コンイベント」に参加をするだけで、異性や同性との出会いの場を提供してもらえるというものです。
「街コン」を知らない人には申し訳ない例ですが、街コンに参加するためにも様々な準備が必要となります。
実際に作成したガントチャートが以下のものになります。
「街コン」に参加するためには、以下のような流れで作業が必要です。
- 参加する街コンの選定
- 参加する仲間の決定
- イベントに応募する
「身だしなみを整える」のはもちろんですが、「参加メンバーとの戦略会議」を行うことで、当日の動きを決めておく必要もあるでしょう。
「街コン」の開催日は確定しているわけですので、それまでにしっかりと準備をして決戦の場に向かう必要があるのです。
【事例2】アルバイトの実施
学生時代は特に生命線となりえる「アルバイト」。自分が望むアルバイトに就労するためにも、事前にそれなりの準備が必要です。
アルバイトを実施するためのガントチャートが以下のものになります。
「アルバイトをやる!」といっても、まずは「自分がどのような条件でバイトをしたいのか?」がはっきりしないと、適当なバイトに応募して、自分の望んだ形(給料高い、恋愛できそう、残業ないなど)ではない状態に陥ることも…
そして、「条件」が決まったところで「バイト求人情報」から自分が望むものを探し出すことができるわけです。「バイトへの応募」が終わったら、必要な書類として「履歴書」が必要となりますので、その準備に取り掛かることができます。
また、採用されるためには「面接」をクリアする必要がありますので、面接官の印象を上げるためにも「身だしなみを整える」ことは非常に重要です。ヨレヨレのスーツしかないならクリーニングに出し、印象を決めるもう一つの要素である「髪の毛」も整えたほうがいいでしょう。
「備忘録」としても活躍し、みんなで共有できる!
これらの例からもわかるように、「何をいつまでに?」ということが、作業の流れを含めて一目でわかるようにできるというのが、ガントチャートの素晴らしいところです。
また、ある程度決まった流れがあるようなケースの場合、
- 作業に抜けがないか
- いつまでに何を準備する必要があるのか
今までは何気なくやってきたことも、このようにスケジューリングを行っておけば抜けも減りますし、直前になって慌てて作業をする必要もなくなります。
そして、何よりも一緒にプロジェクトに関わるメンバーに共有することで、それぞれの役割を明確にもできるのです。ガントチャートを理解して、あなたの生活の「プロジェクト」に活用してみてください。
「ガントチャート」と他のツールの違い
ガントチャートの素晴らしさばかりを推してきましたが、ガントチャート以外にも、タスク・スケジュール管理ツールには様々なものがあります。そのいくつかを紹介しましょう。
GTD
「整理術」として有名な手法です。
自分が抱えている業務を分類し、整理することで「やること」「できること」を明確にしていきます。
「やること、やらないこと」を明確にさせることが重要な手法ですので、一連の流れを持ったようなプロジェクト管理などには直接的に向くわけではありません
ToDoリスト
やるべき「タスク」をリストアップし、終了したタスクを消化していく方法です
ノートやエクセルを利用するケースもあれば、舞い込んできた仕事をすぐにリストアップして、処理していくのに便利な「ポストイット」などで簡易的に作成する方法もあります。
プロジェクトマネジメントの中には「WBS」というものがあり、この「To Doリスト」はそちらに近いものがあります。
「WBS」はプロジェクトマネジメントにおいて”肝”となる部分ですので、特に詳細に説明したいと思います。
カレンダー管理(Googleカレンダーなど)
特定のタスクを「いつやるのか?」を記載する方法です。手帳のカレンダーなどに自分の予定を書くのが一般的な方法ですね。
机の上に書き込みタイプのカレンダーを置いたり、壁にカレンダーを掛けて書き込むことが多く、最近では、携帯性に優れる「Googleカレンダー」を利用する人が多いです。
実行タイミングなどを確認する上では視認性もよくて役に立つツールですが、「他のタスクとの相関性」を把握することが困難なので、やはりプロジェクト管理には向いていません。
ガントチャートとそれ以外のツールの違い
「ガントチャート」をこれらのスケジューリングツールと比較すると以下のようになります。
突発的な対応に関しての対応は可能ですが、調整が必要となるため「GTD」や「ToDoリスト」といったものよりも臨機応変さには劣ります。
ある程度の慣れで克服できる内容ではありますが、それ以外の優れた点をまずは習得し、生かしていくべきです。
「ガントチャート」を作成・活用するためのステップ
ガントチャートは、何も無いところからいきなり作成できるわけではありません。
多くの人が、作成までのいくつかのフローを疎かにしており、作成したガントチャートのそもそもの意味を忘れ、いざ実行という段階で抜けがあることに気づきます。
また、作成して終わりではなく、設定したゴールを迎えるまでの「進捗管理」や、ゴールを迎えた後の「見直し」は非常に重要な項目です。
実際にガントチャートを作成し、プロジェクトを管理するためには、以下のような工程が必要となります。
- 1. 目標設定
- 2. タスクの抽出・分解=WBS
- 3. ネットワーク図の作成/クリティカルパス・メソッド
- 4. ガントチャートの作成
- 5. 進捗フォロー
- 6. 終結
実際に「ガントチャート」を作成するまでには、「1.目標設定」から「3.ネットワーク図の作成」までの3つのステップがあります。どの作業も欠かせないものですので、順を追って学んでいくようにしてください。
また、「ガントチャート」を作成した後にも、「5.進捗フォロー」「6.終結」という工程があります。このサイトのシリーズ『ガントチャートの習得』では、これらの項目を、プロジェクトマネジメント技法を習得するための難解な書籍である「PMBOK」を参考に紹介します。
わたしの実務経験から具体的な活用レベルで習得していただき、ガントチャートを使用して「時間管理」に役立ててみてください。
「作れる」だけの領域では、あなたの時間は一切管理できるレベルには到達しませんので、順を追ってしっかりと「ガントチャートを活用」できるようになりましょう。