あなたは今の会社・職業をどのようにして選択したでしょうか?
今、自身の「キャリア」についてどう考えているでしょうか?
そして、今後どのような「キャリア」を築きたいでしょうか?
就職をした時に、自身の明確な意志でキャリアの方向性を決定した人は少ないかもしれません。中には、キャリアを見直して転職をしたり、まさにこれから就職活動を控えて、キャリについて考えている人もいるかもしれません。
また、自分で決めたキャリアであっても、さまざまな環境・状況の変化で仕事への向き合い方も変化してきます。そのような中、自身のキャリアの方向づけに役立つのが「キャリア理論」です。
ここでは、わたしがキャリアコンサルタントとして学んでいる「キャリア理論」について、働いている・これから働くあなたに役立つ「キャリア理論」を紹介します。
そもそも「キャリア理論」とは?
人は、さまざまな要因や出来事、またそれらをどう受け止めてどう考えたかによってキャリアの選択・決定が変化します。
- たまたま見た職業特集番組の仕事に心惹かれた
- 学校とつながりの深い会社の中から選んだ
- 親類の介護もあって実家の近くの仕事を選んだ
- 子どもの頃の職業体験で好きになった仕事に就職した
人によって異なると考えられるキャリアの選択・決定も、「何らかのつながりがあるのではないか?」といった推測に始まって、学者(もしくはカウンセラー)によって調査・研究されたものが「キャリア理論」です。
「偶然」や「転機」の発生、「経験」から学んだこと、「自分の性格に合う環境」などのさまざまな観点で「キャリア」について理論化されています。
キャリア理論を知っておくことの意味
キャリア理論に関しては、国家資格キャリコンサルタントの勉強を行う上で接しました。一見、キャリア理論は「カウンセリングを行う側が知っておけばいい」というイメージがあります。
ただ、実際に理論を学んでいくことで、これらは「自身のキャリア構築」を考える上で非常に参考になると感じました。
人それぞれ、仕事を選ぶ際にはおぼろげながらも何らかの意志が働いています。ただ、それを言葉にして明確化することは難しいでしょう。
「キャリア理論」を知っておくことは、自分がキャリアをどう選択するかという「結果」を予測する上で役に立つものなのです。
代表的なキャリア構築理論
今回は、キャリア選択・構築に関わる、有名な7つのキャリア理論を紹介します。それぞれの理論は完全に独立しているわけではありません。
まずは、自分のキャリアについて考える上であなたの思考に合いそうなものを重点的に学ぶと良いでしょう。
現象学的アプローチ:スーパー
スーパーは、自己認識の重要性を説き、生涯にわたるキャリア発達という目線で理論を展開しており、その後のさまざまなキャリア理論に影響を与えています。
その中でもとくに重要な「自己概念」と「ライフキャリアレインボー」について紹介します。
自己概念
「自己概念」とは、「価値観」や「信念」といったものにニュアンスが近い言葉です。仕事・職業・役割などにおける自分が「どういった人間なのか?」という事を指します。
自分という人間が不明瞭だと、職業選択の際にも自分が求めるものがわかりません。そのような状態で就職や転職をした場合、自分の自己概念にそぐわない経験が多くなり、職業への不満を感じるようになります。
「人にモノを言えない自分」「ついついキツく指導してしまう自分」「多くの人と関わることで力を発揮できる自分」などなど、いろいろな自分があります。
「自己概念」は自分で主観的に形成したものもあれば、他者からのフィードバックによって形成されたものもあります。
ライフキャリアレインボー
スーパーは、人は生涯に渡ってさまざまな役割を同時並行的に担っていると考えました。そして、その役割は時として軽かったり、重くなったりもするとされています。
人が生涯に渡って果たす役割は9個あるとされており、その役割を「いつ」「どの程度」担っているかを図示したものが、「ライフキャリアレインボー」です。
図では、横軸が「時間」、縦軸は「ライフロール(役割)」を示しており、役割のレベルを表現できます。ライフキャリアレインボーを作成することで、以下のようなことが分かります。
- 自分がどの期間にどういった役割をしてきたか?
- 今後どのような役割を担いたいか?
人と環境の相互作用:ホランド
ホランドは、人と環境は切っても切れない関係にあって互いに影響し合うと考え、仕事選択でとくに有名な分析ツール「VPI職業興味検査」の礎でもある「6角形モデル」を考案しました。
人と環境の6角形モデル:RIASEC
ホランドは、人と環境は相互作用しあうと考え、データを積み重ねて「人(パーソナリティ)」と「環境(仕事)」を同一の6つのモデルに分類しました。
- Realistic(現実的):手作業・工作など
- Investigative(研究的):研究など知識・専門領域
- Artistic(芸術的):アート・クリエイティブ系
- Social(社会的):社会貢献など
- Enterprising(企業的):数字の達成など組織への貢献
- Conventional(慣習的):ルーチンワークなど
簡単に言うと、自分のパーソナリティと仕事が一致すれば仕事への満足度が上がるという事です。
コツコツとデータを元に計算や処理を行うことが好きな人(C:慣習的)が、会計や事務といった同じ「Cモデル」に該当する仕事に就職できると満足度が高いとされます。
現在でも利用されている「VPI職業興味検査」では、「自分の性格」と「興味のある職業分野」を分析し、分析結果をもとにカウンセリングを行う事で職業選択の方向性を決めていきます。
学習理論:クルンボルツ
クルンボルツは「学習」に重きを置き、人間は学習し続けることで「新しい行動の獲得」や「今までの行動の変容」を可能にすると考え、有名な2つの理論を展開しています。
【1】社会的学習理論(SLTCDM)
クルンボルツは、人がキャリアを決定する要因になるものとして「4つの要素」を挙げており、これらが影響しあうことによって、「信念」や「スキル」を得て「行動」に移すと考えました。
【2】プランドハップンスタンスセオリー
「計画的偶発性」とも訳される理論で、「想定外の出来事=偶然」との出会いから自分のキャリアのあり方と向き合う事が重要であるとされています。
つまり、「偶然」を嫌なもの避けるべきものと捉えるのではなく、積極的に偶然の出来事と向き合って「学習→行動」することで、さらなる成長を目指していこうということです。
統合的キャリア発達:ハンセン
スーパーの「ライフキャリアレインボー」を参考にして、その人の仕事・生活上の役割を人生の中で捉えるという考え方が「統合的人生設計(ILP)」です。
統合的人生設計(ILP)
「統合的人生設計」では、個人は以下の6つの人生課題に直面するとされています。
- グローバルな状況を変化させるためになすべき仕事を探す
- 人生を意味ある全体像の中に織り込む
- 家庭と仕事の間を結ぶ
- 多元性と包括性を大切にする
- 個人の転機と組織の変革に対処する
- 精神性、人生の目的、意味を探求する
世の中のさまざまな変化を受け入れた上で、グローバルな問題に対処できる仕事に取り組み、仕事と家庭をうまく男女が両立できるような人生設計をしていこうという意味に捉えられます。
そのためには「自己理解」や「自己成長」が必要であり、「転機」と向き合いながらキャリアを構築することが必要となります。
転機(トランジション):シュロスバーグ
クルンボルツの「計画的偶発性」に似ていますが、その人のキャリアに何らかの変化を与える「転機(トランジション)」をどう受け止め、対処していくかに注目した理論です。
転機(トランジション)
「偶然」と違い、「転機」は必ずその人に何らかの変化を強います。分かりやすい例として以下のようなものがあります。
- 第一志望の企業に受からなかった
- 転居を伴うような異動を勧告された
- 結婚して子供が生まれた
「転機」はその人独自のものであり、その人が置かれた状況や考え方、経験によっても受け止め方や乗り越え方が違います。
この「転機」に対して、「転機の識別の仕方」や「転機へ対処できる資源の活用:4Sシステム」、「転機への対処」について理論化されたものがシュロスバーグのキャリア理論です。
社会認知的キャリア理論
バンデューラは有名な「自己効力感」の提唱者であり、レント、ブラウン、バケットによってキャリアの選択・構築に「自己効力感」を関連づけたものが「社会認知的キャリア理論(SCCTモデル)」です。
SCCTモデル
バンデューラが提唱した、「三者(人、環境、行動)相互作用」を基に考え出されたモデル。
ホランドは「人と環境」に着目しましたが、そこに「行動」が加わり、三者が相互に関わる事でキャリアの発達を促すという考え方です。
モデル図の中でも、とくに以下の3つに着目しましょう。
- 自己効力感
- 目標設定
- 結果期待
「目標設定」をして「行動」し、「結果期待」が満足されれば「自己効力感」が高まり、また新たな「目標設定」をするというループ型のモデルです。「結果期待」が満足されなければ、「自己効力感」が下がり、簡単に言うと自信を無くしてしまいます。
行動から結果を得るという「経験」によって、自分がどういった人間で、どのように自分が構築されてきたかを「認知」することができます。この「認知」をキャリア形成に活かすという考え方です。
例えば、中学校時代に弁論大会の代表に選ばれて県大会まで進出し、先生や他の生徒に褒められたという「経験」があれば、人の前で語ることが好きになるという「学習経験」を基にしたキャリア理論です。
キャリア構成理論:サビカス
当初スーパーに師事していたサビカスが、キャリア発達理論を現代でも活用できるように集大成化したものが「キャリア構築理論」です。この理論では、個人がキャリアをどう捉えるか(主観的目線)を重要視しています。
過去から現在までのキャリアは一見バラバラに見えても何らかの「意味」があります。この「意味」を捉えて、今後のキャリア形成に生かすことを主目的としています。そのためには、以下の3つの視点が重要視されています。
【1】職業パーソナリティ:「What」の視点
「どんな職業が自分にあっているか?」という、キャリア選択における自己認識の段階に近い視点です。
世の中にはさまざまな仕事がありますが、職業を選択するためにはまず「自己理解」が重要です。ただ、自己理解だけでは仕事に適応できないので「職業理解」も必要になってきます。
自分を取り巻くさまざまな要因から、自分を深く理解してキャリア形成に活かすという考え方です。
【2】キャリア・アダプタビリティ:「How」の視点
「どのように職業を選択し適応していくか?」といった視点です。実際に働き始めるとさまざまな変化や転機に直面します。
そういった変化に「適応する力(アダプタビリティ)」を高めていくことで、スーパーの言葉にもあった「自己概念」を実現することを目標としています。
【3】ライフテーマ(キャリアテーマ):「Why」の視点
「なぜ働くのか?」など、人生におけるテーマを把握するという視点を指します。
現在の仕事を選んだり、仕事の中での変化や転機へ対応してきた方法は人それぞれで違います。「その人」が過ごしてきた意味を明らかにすることで今後のキャリア構築に活かすという考え方です。
まとめ:キャリア理論を役立てる
今回は、キャリアコンサルティングにおける代表的な7つのキャリア理論を紹介してきました。これらの中でも、「転機」「SCCTモデル」「キャリア構成理論」の3つが、わたし自身のキャリア形成の考察にしっくりくると感じています。
現代は、働き方も多様化して仕事に関する情報も溢れていることから、職業選択の自由度は高くなりました。しかしその反面、自分のキャリアの道筋を決めることが難しくもなっています。
一部のキャリア理論は、現代ではズレを感じることもあるでしょう。それほど、今の世の中は変化が激しいとも受け止められます。
今後も変化していくであろう世の中で、自分が職業を選択する上でのブレを少しでも減らせるように、「キャリア理論」の知識が少しでも役立てば幸いです。
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