仕事に限らず、さまざまな場で言葉が出る「ゼロベース思考」。ロジカルシンキングにおける思考スタンスの1つとして有名です。
会社においても、プロジェクト発足時に「ゼロベース予算」などの言葉を聞く事もあるでしょう。今回は、「ゼロベース思考」の基本について紹介します。
ゼロベース思考とは
ゼロベース思考とは、名前そのままに「0(ゼロ)を基準にして考える」ということであり、いったんすべての既成概念やしがらみを捨てて、一から最善策を練るという方法です。
この時、「○はどうせ無理だよな」などという考えは一切入れません。あらゆる限界や条件を取っ払って考えることが、「ゼロベース思考」の基本です。
ゼロベース思考がなぜ必要なのか?
せっかく積み上げてきたものがある中で、なぜ「0(ゼロ)」から考えなければならないかという疑問が湧く人もいるのではないでしょうか。
経験や蓄積がある中でもゼロベース思考が必要なのは、従来の規則や積み上げたものだけでは思考の限界に直面するからです。とくに現在は環境の変化が早く、既存のサービスでは通用しなかったり、AIなどの新しい技術の利用・導入が必要となることもあります。
取り巻く環境が変わる中で、既存の社内ルールや経験だけで考えていると、新しい発想や意見が出なくなるという問題があります。
これは、会社に限らず日常生活も同じです。雇用や税金に関わる法律や生活様式など、さまざまな変化がある世の中に対応しなければいけません。
ゼロベース思考の最大のメリット
ゼロベース思考で取り組むことによる最大のメリットは、なんといっても「新しい価値」を発見できるということです。ゼロベース思考は、ある意味「常識」すらもゼロにしてもの事を深く考えます。つまり、「常識を打ち破る」ための思考法なのです。
会社で仕事をしていると、社内ルールや以下のようなことで、やれることがかなり縛られる状況に陥ります。
- 予算の限界
- 使用しているシステムの限界
- 組織間の慣習
ゼロベース思考では、こういったものすらもゼロとしてアイデアを練るので、今まで思いつかなったような「新しい価値」を考えることもできるのです。
ゼロベース思考の注意点
ゼロベース思考が素晴らしそうなことは何となく分かるでしょうし、実際に会社で「お前らいったんゼロベースで考え直せ!」と言われた人もいるのではないでしょうか。
しかし、ゼロベースで考えることがいかに難しいかは、自身で経験した人にはよくわかるでしょう。ゼロベース思考での会議は、結果的に議論が活発にならないどころか、その場を取り繕うような意見が飛ぶことも多いでしょう。
ゼロベース思考が避けられる理由
ゼロベース思考がなかなか浸透しない理由には、大きく2つあります。この2つの理由はもっともであり、こういった問題をクリアにしない限り、ゼロベース思考会議はただの意見交換会となり果てるのです。
【1】現状の延長線上で考える方が楽だから
ゼロベース思考とは、ある意味「新しいことを考える」ことと同義です。しかし、いきなり「新しいサービス」「新しい製品」を考えろと言われても難しいのが実情です。
仕事を行う上では、「新しいもの」よりも、以下のような既存の延長にあるものの方が取り組みやすいのが事実です。
したがって、多くの場合は、既存の製品やサービスを「どうレベルアップしていくか?」に時間を割くことが多くなります。そして、それ自体も会社の存続には必要なのです。
【2】既存の慣習を変えたくない勢力がいる
ゼロベース思考で考えたものを実行する場合に、大きな壁となるのは「抵抗勢力」の存在です。どんなに組織が小さくても、新しい変化を受け入れたくない人もいます。
- 既存の仕組みの方がやりやすい
- 今更環境を大きく変えたくない
- 今までの経験・経歴が崩れるのが怖い
ゼロベース思考は、「変化」を促すこととほぼ同義です。抵抗勢力が必ずしも悪いわけではありませんが、会議の最初から関連する人はもちろん、部署の代表などが同じ席にいなければ意味がありません。
ゼロベース思考の成功例
ゼローベース思考のメリットや難しさについてはお伝えしてきましたが、ここでは、ゼロベース思考によって構築されたビジネス事例を紹介します。失敗事例は多くの人が経験していると思いますので、成功事例を紹介します。
有名な事例であり、現在では常識的な話しもありますが、ちょっとした発想の転換なんだということを感じていただければ幸いです。
ファーストフードの「モスバーガー」
ファーストフードといえば値下げ戦争がよく起こっている業界であり、ハンバーガーでは特に顕著に価格戦争が起こっていました。マクドナルドやロッテリアなどが代表的です。ただ、モスバーガーは値下げ合戦には加わりませんでした。ファーストフードのメリットである「安い、早い」の競争ルールに縛られなかったのです。
素材や味にこだわりがあることは大前提ですが、ハンバーガーのファーストフード業界において、作り置きではなく「受注生産」という新しい発想を盛り込んだのです。
研究開発の方向姓を変えた「コンパック」
パソコンが普及し始めた1990年代は、各社が自前のソフトとハードウェアの研究開発に躍起になっていました。しかし、コンピューター関連の技術の進歩は凄まじく、1社で全ての製品開発を行うのは厳しい状況でした。(Apple社は自前にこだわっていましたが)
その状況を読み取って、素早く現在主流の分業体制に舵を切ったのが「コンパック」です。自前で全てを研究開発するのではなく、インテルのプロセッサーやマイクロソフトのOSを「組み合わせる」ことで製品を作り出したのです。
企業にとって研究開発は重要ですが、それに時間が掛かって市場への拡散が遅れていては意味がありません。「研究開発は他社を圧倒する逸品を創る」といったことにこだわらず、市場にいち早く投入する「時間的な早さ」を盛り込んだというわけです。
まとめ:ゼロベース思考とは
ゼロベース思考について説明してきましたが、いかがだったでしょうか。ゼロベース思考のポイントは以下の通りです。
ゼロベース思考は必ずしも成功するわけではありません。実行段階でつまずいてしまう事も少なくないのが実情です。ただ、慣れ親しんだ慣習や変化のない考え方だけでは妥協や惰性が増えてしまう恐れもあります。
ときには全てのしがらみを取っ払った「ゼロベース会議」を行い、思考力のレベルアップを図る事も重要です。