わたし自身が製造業の開発職出身ということもあり、原価については特に注意が必要でした。企業の利益はコストによって大きく変わるため、標準原価の試算は利益に大きく影響します。
ここでは、標準原価の基礎の基礎を説明します。
標準原価とは?
標準原価なんで設定しないといけないの?
理想と現実のどちらが重要となるのか?
標準原価の設定方法
まとめ
標準原価とは?
「原価」というと、多くの人は以下のようなことをイメージするのではないでしょうか?
しかし、原価には、それ以外にも以下のようなさまざまな要因が絡んできます。
- 原材料費
- 製品を作るための燃料費
- 製品を作るために稼働させたマシンの時間当たりの使用料
- マシン稼働に掛かる人件費
標準原価を決める際には、こういったコストの「過去の実績」や「今後の費用変動の見込み」を盛り込んで、製品製造に掛かる原価の標準値を算出します。
例えば、製品の歩留まりの実績が良ければ、マシンを稼働する時間が減って製造コストは下げられます。したがって、標準原価の設定値よりも安く製品が製造でき、結果的に利益が増えます。(利益=売上高-コスト)
標準原価は低いほど厳しい
標準原価は、単純に言えばコストが低いほど下がります。しかし、コストを下げるためには以下のような取り組みが必要です。
- 原材料費を安くする
- 歩留まりを上げてマシンの使用時間を減らす
- マシンに掛かる燃料費や電力費などを下げる
しかし、これらを行うのは容易なことではありません。そのため、製品開発の場合、開発側は極力標準原価を高く設定しがちです。ただ、利益を確保しなければいけない「営業」側は、コストが上がる分だけ販売価格を高くする交渉を行う必要に迫られて苦労します。
製品が高値で売れればいいのですが、ライバルが多い市場では適正価格もあるため、容易に販売価格を上げることはできません。標準原価の設定は、利益や予算設定のために非常に重要なのです。
標準原価はなぜ設定しないといけないのか?
企業には目標とする利益があり、目標を達成するために投入する「予算」を決める必要があります。事業の中で利益が大きいものに注力したいのは、どこも同じでしょう。ただ、そのための予算設定には数値がないと議論ができません。
売り上げ目標や利益を明確にするためには、原価やその他の費用の標準値の把握が必要不可欠なのです。
標準原価を設定するメリット
標準原価を設定することで、予算策定の段階で、製品製造の原価予算を把握をできます。また、当初策定した標準原価と実際原価の実績値を比較することによって、特に差が大きく利益を圧迫している要因を「見える化」できます。
標準原価は、「コストの削減」によって収益を改善するための道すじを、数字で把握できるのです。(営業に高く売れと言えるならいいですが・・・)
数字で目標を示すことによって、各部署(製造、開発、調達など)が自分たちでやるべきことも把握でき、他部署にコスト削減の必要性を訴えることもできます。また、予算に対してどれだけコストを抑えられたかという改善結果を、数値で示すこともできます。
標準原価は理想と現実のどちらに寄せるべきか?
標準原価を設定する場合には、常に2つの壁とぶつかることになります。それが「理想」と「現実」です。
製造マシンにおいて、技術的に可能な最大稼働率での製造が可能で、歩留まりも技術的な限界レベルを見込む標準原価を、「理想的標準原価」と呼びます。また、マシンの現実的な稼働率や製品の現実的な歩留まりを基に算出する数値を、「現実的標準原価」と呼びます。
「理想的標準原価」は、コストが安く設定されるため利益率も上がります。しかし、実際に稼働した時に理想レベルの原価を達成できなければ、利益を圧迫して赤字転落です。
逆に、現実的な標準原価ばかりでは、予算の見積もりの甘さを指摘されることになります。次に標準原価を設定する時に予算が厳しくなり、少しでも歩留まりが落ちれば見込み益を圧迫し、すぐに改善の対象となります。
標準原価の設定方法
標準原価は「理想」に寄り過ぎてもいけませんし、現実的な路線だけを見ていては会社の利益を上げるための技術レベル向上が望めません。したがって、標準原価の算出は関係する部署間で、協議の上設定することが必要です。
- 製品開発
- 生産技術
- 購買
- 生産管理
- 営業(とくに予算策定の段階で)
これらの部署間で、過去の実績をもとに標準原価を設定することが重要なのです。具体的な算出には、以下のような費用を基に算出します。
標準直接材料費
使用する材料の標準消費量と標準価格を掛け合わせて算出します。
- 標準直接材料費
- 標準直接材料費=標準消費量×標準価格
材料の標準消費量は、開発品ならば「試作実績」、生産品ならば「過去の生産実績」から妥当な量を決めます。「標準価格」も、過去の仕入れ実績や、今後の変動を加味した予定価格を参考に決めます。
標準直接労務費
製品の製造に関わる従業員の標準直接作業時間と賃金(標準賃率)を掛け合わせて算出します。
- 標準直接労務費
- 標準直接労務費=標準直接作業時間×標準賃率
これらは基本的に会社で決まっている実績値をもとに算出されます。今までと違う特別な作業が加わる場合は、その分を新たに見込む必要があります。
標準製造間接費
標準製造間接費には「固定予算」と「変動予算」があります。
固定予算はマシンの稼働率などには関係なく一定額掛かるコストです。それに対し、マシンの稼働率(操業度)によって変動するコストが「変動予算」となります。
これらは基本的に製造マシンによって決められています。製造に関わる部分のため、開発や技術スタッフは把握していないことも多く、こういったコストの把握のために、必ず製造部門との連携が必要になるのです。
まとめ
モノづくりに限らず、特定のコストが掛かる業態では、「標準原価」は利益目処の設定や予算の割り当てのために必ずつきまといます。したがって、自分が所属している企業での標準原価の考え方は、早めに理解しておく必要があります。
企業や業界によって、標準原価に対する考え方や重視する数値などのポイントが異なりますので、転職などで新しい企業に入社した場合はいち早く確認しましょう。